はじめに:基礎だけじゃない、“地盤”こそ家づくりの土台
家を建てる際、「とにかく頑丈な基礎を作ろう」と意識する方は多いですが、実は地盤そのものが弱ければ、どれだけ基礎がしっかりしていても家全体が沈むリスクがあります。日本の住宅トラブルに関する報告でも、過去10年程度の間に「建物が傾いてきた」「床のレベルがずれてきた」といった不同沈下(ふどうちんか)の相談が一定数寄せられています。地盤がフカフカ(軟弱)だと、数年~十数年かけてじわじわと沈下していき、気づいた頃には基礎に大きなひびが入っていた…という例も少なくありません。
「地盤改良工事は高いし、やらなくても建てられると聞いた」「予算がきついから地盤調査だけ安く済ませてしまいたい」という方もいますが、長期的な安全性を考えるなら信頼できる地盤調査と、必要に応じた改良工事は必須です。本記事では、地盤が弱い場合にどういう恐怖が待っているのか、どのような症状が表れてくるのか、そして予防策や既に沈下が起きている場合の対処法を分かりやすくまとめました。
1.どんな症状が出る?
(1) 家が少しずつ傾く
地盤が原因で起きる沈下トラブルの多くは、最初は気づかないほどの微量な傾きから始まります。引き渡し後しばらくは問題なく暮らせても、数年から十数年経ってから、ドアや窓の開閉が渋くなったり、床に転がしたボールが片方にスーッと転がるなどの症状が出てくるのです。近年(2010年代以降)も、こうした「数年後に発覚」パターンで相談を受ける事例が少なくありません。
(2) 基礎や外壁のクラック
家が一部だけ沈む「不同沈下」の場合、基礎に引き裂かれるような斜め方向のひび割れが入るケースがあります。また、外壁のモルタルやサイディングの継ぎ目にもクラックが発生しやすく、放置すると雨水が入り込むリスクが高まります。こうした深刻なクラックは美観を損ねるだけでなく、建物構造そのものの安全性にも影響すると指摘されています。
(3) 床にスキマ・床鳴り
フローリングと基礎の間に隙間ができたり、床下の根太や大引きが歪んで床鳴り(フローリングを踏むとギシギシ音が鳴る現象)が頻発するなど、住み心地に関わる問題も起きます。実際、過去10年の修繕・リフォーム相談事例でも「床鳴りが酷く、調べたら基礎周りが傾いていた」という報告が一定数あります。
2.なぜ起こる? 地盤沈下の主な原因
(1) 軟弱地盤や造成地
そもそも田んぼや沼地を埋め立てて造成した土地は、締め固めが十分でない場合、長い年月をかけてじわじわ沈むことがあります。過去10年ほどでも、新興住宅地や埋め立て地で複数の家が同時に沈み始める事例が報道されたことがあり、社会問題化したケースもありました。
また、河川沿いで地下水位が高い場所や、盛り土の層が厚い場所は、一見平坦でも下が軟弱で建物を支えきれないリスクがあります。
(2) 地盤改良なしで建築
地盤調査によって「ここは弱いですね」と結果が出たのに、費用を惜しんで改良しなかったり、改良の方法が適切でなかったりする場合も。例えば、実際は杭打ちが必要なほど軟弱なのに表層改良(地表付近だけ固める方法)だけで済ませたり、そもそも調査すらロクにしないまま建ててしまうと、後々不同沈下に悩まされることになります。
(3) 周辺工事の影響
自宅の地盤は問題なくとも、隣地で大規模工事が行われた影響で地下水位が下がるなど、環境が変化して沈下が誘発されることもあります。特に都市部では、道路拡幅や大型ビルの建設などによって地下に杭を打ち込む工事が頻繁にあり、その影響で近隣住宅の地盤が局所的に弱くなることが指摘されるケースも。こうした「外的要因」は施主や施工会社の努力だけで防ぎきれない面があるため、地域の状況を把握しながら慎重に進める必要があります。
3.家づくりへの影響は?
(1) 長期的に進行しやすい
地盤の沈下は一夜にして起きるものではなく、数年から十数年にわたって少しずつ進むことが多いです。特に大雨や地震など外部からの刺激がきっかけで一気に沈みが顕在化する例もあり、「それまでは何でもなかったのに、突然床が斜めになった」と訴える住宅オーナーもいます。
(2) 修繕コストが高額
もし不同沈下が深刻になると、家をジャッキアップして基礎の下に薬液を注入したり、新たに杭を打ち直すなどの大掛かりな工事が必要です。こうした改修は数十万~数百万円規模の出費になる可能性があり、保険や保証がなければ施主負担となります。また、建物の歪みが構造全体に広がっている場合は、部分的な補修だけでは対応しきれないケースもあるため、費用がかさみやすいです。
(3) 精神的ストレス
家の傾斜やひび割れは、見た目の問題だけでなく住む人の心理的負担が大きいです。ドアや窓の開閉がしづらくなる、棚や机がガタつく、段差に躓きやすくなるなど、日常生活に支障を来すこともあります。軽度の傾きでも家族が不安を感じたり、将来的に資産価値が下がったりするなど、精神面・経済面のダメージは決して小さくありません。
4.対策・チェックポイント
(1) 地盤調査をしっかり実施
新築時の家づくりでは、まず地盤調査が重要です。よく行われる「スウェーデン式サウンディング試験」や「表面波探査」などで、地盤の支持力や地下水位を確認し、必要なら地盤改良(表層改良・柱状改良・杭打ちなど)を提案してもらいます。近年のデータでも、地盤調査を省略した住宅で不同沈下が起きた例が報告されており、費用を惜しんで調査を飛ばすのは大きなリスクといえます。
(2) 信頼できる地盤保証
地盤改良を施工した場合、施工会社や保証会社が「〇〇年保証」などを設定していることがあります。ただし保証の内容はまちまちの可能性もありますので、契約前にしっかり確認しましょう。保険や保証の範囲を見誤っていると、実際に沈下が起きたときに「これは対象外です」と言われてしまい、高額な改修費を自己負担せざるを得なくなるケースもあります。
(3) 造成後の経年も考慮
新興住宅地で、造成からあまり期間が経っていない場所は、まだ地盤が落ち着いていない可能性があります。一般には「造成後数年間は地盤が安定せず、ゆっくり沈む場合がある」とされており、購入時期を慎重に見極める方がいいとも言われます。ただし、築年数や造成からの経過が長ければ絶対大丈夫とも限らないため、いずれにせよ地盤調査は必須です。
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